瀧労務管理事務所

個別労使紛争の予防について ポイント

近年、特に中小企業において、個別労使紛争(労働条件その他の処遇をめぐっての労働者個人と事業主の間の紛争)が増加の一途をたどっています。

これは、景気低迷による労働条件の劣化や人事労務管理の個別化(年功序列賃金体系の崩壊による同期社員との賃金格差拡大等)および従業員の権利意識の変化を背景としたものです。

また、「退職した労働者」が会社側を訴えるというケースも頻繁に発生しています。たとえば、労働保険や社会保険に加入していなかった会社に対して、退職後に給付がもらえないことに気が付いた労働者が損害賠償を請求するようなケースです。

仮に、労働者側が裁判所に提訴した場合、裁判の勝敗によらず会社側は多大な被害を被りますし、また、訴訟といった問題に発展しなくとも、一部の労働者の申告等により労働基準監督署等から是正勧告が入った場合には、労働者全体のモラール(士気)低下は避けられません。

ひとたび労使間の紛争が発生してしまうと、双方の法律の無知もあり、互いに感情的になり、 なかなか穏便に和解という方向にはいきにくいものです。また、たった一名の従業員とのトラブルを発端として、 事業所全体の労使トラブルが噴出してしまうことも珍しくありません。

ここで勘違いしてはいけないのは、労使トラブルというのは必ずしも引き金となった出来事のみが原因ではないということです。

むしろ、これらのトラブルは、労働者の日頃からの不平不満といった"感情"が、たまたま処分や退職といった機会にいっきに表面化されたものであるケースが多く、実は、その原因は一見平穏に見える日常の業務の中に潜んでいることがほとんどです。

したがって、日頃から、労働者の"心のケア"に気を配ることこそが紛争を未然に防ぐことに直接つながります。

もちろん、トラブルが起きた場合に備えて「就業規則」を整備しておくことも重要なことではありますが、やはり、トラブルが起きないに越したことはないのはいうまでもありません。

私たち専門家を有効活用下さい

労働問題は企業の存続に関わります
労働問題は企業にとって重大な問題だと捉える事が必要です。 「残業時間・就業時間・勤務体系・給与体系の問題」を、ほんの些細な問題として、 重大なことだと認識せずに放置した結果、大きな労働問題に発展し、経営の根幹を揺るがす大問題になることがあります。
労務問題の専門家に依頼する必要性

この不況下では人員整理のため、やむを得ず解雇した社員が合同労組に駆け込み、団体交渉を申し込まれるケースは増加の一途を辿っています。労務問題は経営上の重要な問題であり、解決するには専門家への相談が有効です。早期に解決し、出来るだけ早く次のテーマへ取り組むのが、会社にとってベストだといえます。

労働問題は非常にナイーブな問題であり、「法」という枠以外に個人の見解(組織の見解)の範囲という部分が存在し、解決方法や対処方法は数え切れないほどにあります。 やはり、そのような部分は、専門家でありかつ多くの経験をした方にしか分からないといえます。

労働問題を解決するにあたって、どのような方法を取るのが最も効率的でしょうか

一番簡単なのは、会社内で話し合いを行い解決することが最も良い解決方法だといえます。しかしながら、解決に導くには労働法務面での何らかの指針が必要です。 会社の就業規則や残業代が適正ではなく、法律に違反しているのであれば、当然見直す必要がありますが、もし触れていないのであれば、安易に見直すことはお勧めできません。 指針が無い場合、一度要求を飲んでしまうと、要求を飲み続けなければならなくなります。そのような事態は避けなければなりません。

労働問題を専門にやっている方に依頼すること(労働問題の専門家=特定社会保険労務士)が一般的にはベターと言われています。 弁護士の方に依頼することも可能ですが、弁護士の方が威力を発揮するには、訴訟が起こった場合であり、事後だといえます。問題が発生する前に、ことが大きくなる前に解決、または事前に防止することが重要です。防止するためには特定社会保険労務士に依頼することをお勧め致します。

信頼できる特定社会保険労務士を見つけるには
  1. 実務経験の有無
  2. 労務に関する知識量
  3. 職務・資格経歴
  4. 業務に臨むスタンス

これらのポイントで評価し、依頼する特定社会保険労務士を決めることが最適だといえます。労務問題は一般的な業務に比べて、必要とされるスキルが若干特殊なため、社会保険ではなく「特定社会保険労務士」に依頼することになりますが、「特定社会保険労務士」によってもその成果に大きな差が生じます。 特に④の「業務に臨むスタンスでは、経営と雇用に関する「センス」「ヒアリング能力・態度」が大切です。そのため上述のとおり、実績や経験を重視することをお勧め致します。

就業規則の基礎知識

就業規則の作成・変更その前に

事業主と労働者個人の労働紛争の約90パーセントは、就業規則の未整備に起因しているといわれています。労働事務所や労働基準監督署への相談・申告、紛争調整委員会のあっせんが増える中で、労使双方にとって無駄な紛争を避けることは重要です。就業規則は職場の実態に則したものでなければなりません。出来合いの就業規則をそのまま利用しても、就業規則の整備が十分とは言えません。「会社を設立したので就業規則を作成される方」、「従業員を雇い入れたので就業規則を作成される方」、「就業規則を作っていなかったので作成される方」、「会社の実態に合わせて就業規則を変更される方」、「法律にそぐわなくなった就業規則を変更される方」など、事情は様々だと思いますが、ぜひこの機会に貴社の就業規則を職場の実態に合った適正・適法なものにしてください。

就業規則とは何?

一般的に企業は、複数の労働者を継続的に雇用し、これらの労働者を一定の秩序のもとに就業させることにより成り立っています。そこで、労働者を秩序づけ、組織的に就業させるために、職場の組織を明確にし、服務規律とその違反にたいする制裁措置を設ける一方、賃金、労働時間その他の労働条件についても体系的に定めておく必要があります。このような必要性から、労働者が遵守すべき服務規律や労働条件を体系的・統一的に定めたものが、就業規則です。つまり、就業規則は職場の憲法・法律ということになります。ルールのない組織・社会は無法地帯ということになります。もちろん暗黙のルールというものもあるでしょうが、利益が相反することも多い労使間においては、たびたび紛争の原因となります。

就業規則の作成

常時10人以上の労働者を使用する使用者は、就業規則を作成して、遅滞なく所轄労働基準監督署長に届け出なければなりません。就業規則を変更した場合も同じです。(罰則 30万円以下の罰金)常時10人以上の労働者を使用は就業規則の作成・届出義務の条件であり、常時10人未満の労働者を使用する場合であっても、就業規則の意義からいって、就業規則を作成することが望ましい。 就業規則の作成・届出単位は事業場単位と解されています。たとえ同一企業内であっても、事業場を異にする場合は、それぞれの事業場において常時10人以上の労働者を使用するかぎり、事業場ごとにそれぞれの就業規則を作成し、届け出なければなりません。

就業規則の手続

就業規則の作成・変更にあたっては、その事業場に労働者の過半数で組織する労働組合がある場合にはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合には労働者の過半数を代表する者の意見を聴かなければなりません。(罰則 30万円以下の罰金)また、所轄労働基準監督署長への届出の際は、この意見を記した書面を添付しなければなりません。 意見の聴取は、必ずしも労働者の同意を必要とはしません。労働者側が反対の意見を表明した場合であっても、使用者は、労働者側に反対の旨の意見書の提出を求めて、これを添付すればよいのです。 ただし、労使で就業規則の内容については十分に協議し、労働者側の理解を得ることが望ましいのはいうまでもありません。

就業規則の周知義務

 作成した就業規則は、以下の方法により、労働者に周知させなければなりません。(罰則 30万円以下の罰金)
  • 常時、各作業場の見やすい場所に掲示または備え付ける。
  • 書面を労働者に交付する。
  • 電子媒体などに記録し、なおかつ各作業場に、この記録を常時確認できる機器を設置する。
 つまり、労働者が、いつでも自由に、就業規則の内容を確認できるようにすることが必要です。

就業規則の記載事項

就業規則の記載事項には、労働基準法上必ず定めなければならない必要的記載事項と、使用者が自由に定めることができる任意的記載事項があります。さらに必要的記載事項は、必ず就業規則に記載しなければならない絶対的必要記載事項と、なんらかの定めをしたときは就業規則に必ず記載しなければならない相対的必要記載事項に分かれます。それぞれに分類をすると以下のとおりです。

委託できる事務の範囲

絶対的必要記載事項
  • 始業および就業の時刻、休憩時間、休日、休暇ならびに労働者を2組以上に分けて交替に就業させる場合の就業時転換に関する事項。
  • 賃金(臨時の賃金等を除く)の決定、計算および支払の方法、賃金の締切りおよび支払の時期ならびに昇給に関する事項。
  • 退職に関する事項。 つまり、労働時間、休憩、休日、賃金、退職に関しては、就業規則に必ず記載しなければならないということです。
相対的必要記載事項
  • 退職手当の適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算および支払の方法ならびに退職手当の支払の時期に関する事項。
  • 臨時の賃金等(退職手当を除く)および最低賃金額に関する事項。
  • 労働者の食費、作業用品その他の負担に関する事項。
  • 安全衛生に関する事項。
  • 職業訓練に関する事項。
  • 災害補償および業務外の傷病扶助に関する事項。
  • 表彰および制裁の種類および程度に関する事項。
  • 事業場の労働者のすべてに適用される事項。
任意的記載事項
使用者は、法令、公序良俗または労働協約に違反しないかぎり、いかなる事項についても自由に就業規則に定めることができる。

就業規則の適用

退職に関する適用

退職に関する事項という場合の退職には、解雇も含まれます。したがって、使用者としては、労働者をどういう場合にどういう手続で解雇するのか、就業規則に記載しておかなければなりません。また、これを定めた以上は厳格に運用しなければなりません。 たとえば、就業規則の中で一定の解雇事由を記載した後に、「その他やむをえない事由がある場合」とか「その他前各号に準ずる場合」というような一般的・包括的な規定を設けているのが通例ですが、この場合でも、限定列挙した解雇事由との関連において適用すべきです。もし解雇事由としたものが客観的にみて相当でなく合理性を欠く場合は、解雇は無効となります。

制裁に関する適用

制裁規定についても、解雇の場合と同様、その運用は厳格にしなければなりません。懲戒事由・手続が就業規則に定められていれば、これに従わなければなりません。また、懲戒の程度・方法も客観的に妥当なものでなければなりません。

制裁規定の制限

使用者が就業規則に定める制裁は、減給のみではありませんが、減給の額によっては労働者の生活に大きな影響を与えることから、とくに労働基準法において減給の額に制限が設けられています。

  • 1回の違反行為に対する減給の額は平均賃金の1日分の半額を超えてはならない。
  • 減給の額の総額は1賃金支払期における賃金の総額の10分の1を超えてはならない。
  大企業の不祥事の時に、「3ヶ月間、役員報酬の20%カット」などと報道されていますが、これは彼らが労働者ではないからです。

就業規則の効力

就業規則と法令・労働協約の関係
就業規則が法令や労働協約に反する場合は無効となります。ただし、その就業規則が、すべて無効となるのではなく、違反する部分についてのみ無効となります。 就業規則が法令や労働規則に反する場合、所轄労働基準監督署長はその変更を命ずることができます。変更に従わない使用者は、30万円以下の罰金に処せられます。
就業規則と労働契約の関係

就業規則の基準に達しない労働条件の労働契約は、その部分について無効となり、その部分は就業規則の基準によります。

それぞれの効力の関係は次のとおりです。

法令 > 労働協約 > 就業規則 > 労働契約

この効力の関係については、特に労働条件の変更の場合に注意が必要です。 例えば、個々の労働契約の労働条件を変更した場合、その労働条件が就業規則にも記載されている時は就業規則も変更しなければ、労働条件の変更は有効になりません。

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